TVアニメ『ラブライブ!』第11話の変化する人間関係、そのずれの描き方

TVアニメ『ラブライブ!』に相変わらず驚かされっぱなしで、とても楽しんで観ています。
第11話は、第3話の反復をみせつつ、さらに大きな期待からの反動を描く展開で、その大胆さがとてもよかったです。
しかし、大胆な構成ながら、実は今回の穂乃果たちのずれが決定的になるまでに至る道も結構見えていて、そこもまた面白かった。
なので、今回の記事ではそこを見ていこうと思います。


第11話で、ことりが何かを抱えている描写も気になりつつ、個人的に目にとまったのが、穂乃果と絵里の関係でした。
絵里は、穂乃果の提案を、彼女がリーダーとしてμ'sをひっぱってきた素質を感じとった上で、それをより具体化していきます。
前回の、穂乃果の突発的な合宿の提案をうけて、絵里が先輩禁止という計算をもってその穂乃果の真意である、チーム全体が打ち解けるという目的を明確化したことも、こうした部分の顕著な部分ですね。
そうした、穂乃果の第6話でかいま見せたようなリーダー性を伸ばして、よりグループ全体に還元する形で絵里が働きかけたからこそ、μ'sもどんどん順位を伸ばしていった、と想像させます。


しかしながら、同時にここに予想外の落とし穴が出てきます。
絵里は今まで生徒会長として、あるいは現実は甘くないと告げるものとして、穂乃果たちの前に立ちふさがっていました。
それは障害ではありましたが、絵里の言い分にも正しさはあり、彼女を必要とし、迎え入れたとき、穂乃果たちはより過酷さをともなう段階に入っていくことになります。
とはいえ絵里も無理ではないとわかったからこそ加入した身。前述のとおり、彼女の加入でμ'sはさらなる段階に上っていきます*1
それはいいことなのですが、問題になるのがここでの絵里との関係の変化です。

前回の記事に書いたように、穂乃果は第1話で(おそらく)生徒会長として講堂に立つ若い母の写真をみて口元に力をこめた描写を見せている、「生徒会長」に無意識的にしろコンプレックスを抱いていたようなキャラでした。
それが今では絵里は仲間になり、先輩を取り払って名前で呼び合い*2、提案を形に変えてくれる存在になった。
そのことは穂乃果の精神を鼓舞し、さらに彼女を燃え上がらせますが、同時にそれが肉体とのずれを引き起こしていきます。
気持ちでは万能感すら持って突き進むものの、今置かれているのは先述したとおりラブライブ出場を賭けた過酷な状況であり、肉体はその間にさらされているのです。
第1話で「小学校の遠足以来」と言われる早起きをして、第2話以降ずっと朝練で早起きを続けていた穂乃果が、学園祭当日に「起きられない」という、決定的な描写にあらわれたのが、その結果です。
また、万能感に加えて、μ'sをラブライブに押し上げる最中のためにその目標に視線が固定されて、穂乃果はことりのことにも気づけません。
上手いのは、ここで競っている相手というのは画面を介してでしか認識されない他校のスクールアイドルであり、相手の姿が見えないぶん視野が狭まってしまうんですね。
これまでの、ネットを通した得票に対する喜びや、スマートフォンアプリによる複数人での通話のように、新しいコミュニケーションツールに取り囲まれた彼女たちの状況が、作劇とうまく合致していると感じる場面です。


話がそれましたが、一方で、絵里は穂乃果の能力を伸ばすことは成功しても、細かいフォローまで完璧にこなすことはできません。
それは第10話で、先輩禁止によって花陽らとは距離を縮めつつも、真姫とは希を介さなければ打ち解けることができなかった、彼女の距離感の取り方からも見て取れます。
絵里は、頭脳としてチーム全体を見て、第9話ではことりを抜擢したりと個性を伸ばすことはできますが、個人の問題には踏み込みきれません。
それだけに穂乃果の、にこや絵里へ働きかけたり、第9話でのことりの悩みに付き合ったりといった行動が彼女の強みと再認識できるのですが、今回はまさにその穂乃果にずれが生まれてしまう。
今回の場合は、そもそも関係性の変化による影響もあるので、当事者である彼女たちが認識することも難しい、というのもあります。
やはりそこで重要になってくるのが、変化とは無縁の、子供の頃からの仲である海未とことりですが、ことりも(どうやら)今の関係性に変化をともないかねないような個人の問題があり、海未はそんな二人の別個の問題を同時に対処はしきれません。
穂乃果は焦りという内的な問題、ことりは手紙の内容による外的な問題で、より表に悩みが出てくることりの方にどうしてもひっぱられてしまうんですね。
最終的にライブでは海未とことりが両端に配され、三人は分断されてしまいます。
*3
ふたたび話はそれますが、内部と外部に一度に問題が起こる流れは、第9話最後のことりの眠っている場面から、第11話の穂乃果が目を覚ます場面へとつなぐ映像の流れで、前者で仕掛けておいて、後者で表に出てくる、とも見ることができるのも面白いところだと思います。
間にある第10話では寝起きの悪すぎる海未というコミカルな場面をはさんでいるのも、むしろ落差が効果的です。


視野の狭まり、それによることりや絵里らとのずれ、精神と肉体のずれ、夜の特訓によるバイオリズムのずれが、穂乃果の主観に視点を置いた構成と演出で最大限に効いてくるのが、恐ろしくもとても面白い回でした。
9人揃って、第10話でキャラとその関係性を掘り下げた上でこうした決定的な事件を持ってくる、という構成の妙も感じましたね。
中二病でも恋がしたい!』後半で立花や凸守らが見せた外見と関係性の変化のように、変化していく関係性を描くことが花田十輝さんのひとつの特色なのかもしれないとも思わされます。
さて、そこで次回のサブタイトルは「ともだち」。あと2回で何を見せてくれるのか、まだまだ楽しみで仕方ありません。


ラブライブ!関連エントリ

*1:第8話で、「僕らのLIVE 君とのLIFE」を踊ったあと穂乃果が「できた」と言うのが印象的です。

*2:第11話冒頭でも、絵里と名前を呼び合う場面を組み込んでいる。

*3:No brand girls」曲中のキメの部分のひとつながら、ことりと海未だけが画面に入っていないカット。