話数単位で選ぶ、2023年TVアニメ10選

かなり久しぶりの投稿になりますね。皆様お元気でしたでしょうか。

 

最近はTwitter(X)の方でもTVアニメの各話に感想をつけることが多く、

今年は記事を書けるだけの話数がぱっと浮かんだので書いてみることにしました。

 

今は本企画の集計は「aninado」様が行っているそうです。

企画趣旨も「aninado」様から引用させていただきます。

■「話数単位で選ぶ、2023年TVアニメ10選」ルール
・2023年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・順位は付けない。
・集計対象は2023年中に公開されたものと致しますので、集計を希望される方は年内での公開をお願いします。

 

■『山田くんとLv999の恋をする』Lv.08「もしそうならそれはすごく」

 

脚本/中西やすひろ 絵コンテ/澤井幸次 演出/熊野千尋 作画監督/竹内杏子、唐澤雄一、宮前真一 総作画監督濱田邦彦

カードキャプターさくら』『ちはやふる』といった少女漫画作品の監督を多数手がけている浅香守生監督だけあり、第1話のアバンからして引き込まれる演出をしていたが、今年で68歳の澤井幸次の絵コンテは特に切れ味が鋭かった。

台詞と台詞の間を切り詰めたハイテンポなコメディで進行したと思えば、茜の心が動く場面は間と静寂(あるいは残響)を使って決定的なものとして描き出す。山田が茜を名前で呼んだ瞬間の白んだ背景と消えるモブは白眉だった。

30分に満たないTVアニメ尺の時間のコントロールが頭一つ抜けていた。

 

■『転生貴族の異世界冒険録』第9話「修行」

脚本/藤本冴香 絵コンテ・演出/中村憲由 作画監督/桝井一平、鈴木伸一、野上慎也、HANIL ANIMATION 総作画監督/徳川恵梨、永井泰平、那須野文

転生した主人公を幼少期から追う転生モノのフォーマットをキッズアニメのテイストに落とし込み、中村憲由監督らしいハイテンションコメディに昇華した技ありの一作。

しかしこの回は主人公のカインがユウヤに呼ばれ、自分が転生した理由を知る作中でもシリアスなエピソード。

Aパートでカインがハクを介錯しようとする時にインサートされる前世の回想と「いつも誰かを守りたいと思っていたのに」という台詞を、Bパートでのドランとの修行中にカットバックされる両親の死因となったアーロンとの戦いの回想と「大切な人を守りたい」という台詞に繋げて、1話数ながらカインの根っこと成長を見せ切る編集が見事だった。

天丼コメディを続けることでカインと彼を取り巻く人々の絆にも説得力がある。アニメという抽象度の高い表現が持ちうる伝達力を改めて教えてくれた。

 

■『ツンデレ悪役令嬢リーゼロッテと実況の遠藤くんと解説の小林さん』chapter 6「悪夢とヘタレと姫抱っこ」

脚本/福田裕子 絵コンテ/吉村文宏 演出/上間由梨 作画監督/諸葛子敬、齊藤格、清水勝祐、遠藤省二 総作画監督/片山みゆき

手塚プロダクション制作、『おにいさまへ…』で出崎統監督の下で演出をしていた吉村文宏監督による近年流行の悪役令嬢モノという絶妙な組み合わせが楽しい一作。

実況と解説でも踏み込めない、王子の婚約者という役割によって本心を抑圧されたリーゼロッテの内面に迫るこのエピソードに確かな切迫感があったのが良かった。感情が乗った映像を一気呵成に見せるために切り詰めた編集が良い。

最後に無垢だった頃の少女のリーゼロッテで締めるのも泣ける。

嫉妬の炎を冷たく燃やす楠木ともりの演技と、フィルムスコアリングかのように場面毎の心情を描写する劇伴も良い仕事をしていた。

 

■『彼女が公爵邸に行った理由』第6話「彼女がコスプレした理由」

脚本/広田光毅 絵コンテ/ロマのフ比嘉 演出/上薗隆浩、山元隼一 作画監督/丹澤学、錦戸未奈、橋本真希、林田多希、Haavard Skjeggestad Dale、陳潔琼 総作画監督橋本治

この回は絵コンテが鮮烈だった。

ノアの書斎の場面から真俯瞰が印象的に使われる。こうも上から撮られると、上に何があるのか気になってしまう。そして真俯瞰の構図で場面が寝室から小舟の上へ飛ぶ。夜の水面には花火が照り返している。ノアがレリアナに言う。「私のそばにいてくれ」ああ花火が上がり切る。爆ぜる瞬間、画面に映るのは……。

ノアがレリアナに惹かれているのを決定的なものとして見せるドラマチックな絵コンテと演出にとても興奮したエピソードだった。

『夫婦以上、恋人未満。』#07も良かったし、山元隼一監督の花火回はスペシャルだ。

 

■『トモちゃんは女の子!』#08「夏祭りの夜/二人の距離感」

脚本/清水恵 絵コンテ/小林一三、駒宮僅 演出/塚田拓郎、駒宮僅 作画監督/駒宮僅、谷口元浩、高星佑平、中和田優斗、二宮奈那子、赤尾良太郎 総作画監督谷口元浩

第1話は智と淳一郎の肉体接触がヒヤヒヤする割にオチをつける前のタメや後の余韻みたいなものがなく平坦で大丈夫かと思っていたが、狂言回しのキャロルの登場以降は右肩上がりに面白くなっていった、ある種TVアニメらしい作品。

特にこの第8話はBパートの絵コンテ・演出・作画監督を務める駒宮僅が衝撃だった。冒頭から水たまりの映り込みまで使ったレイアウトや凝ったライティングで見せつつ、デフォルメも勢いがあって楽しい。

情感や緊張感はあるけど枠に収まらない破天荒さもある演出がそのまま群堂みすずのパーソナリティに直結している感じも良かった。みすずはお気に入りのキャラクターだから、Aパートの独白からBパートの淳一郎との帰り道に繋げて彼女の心情を拾ってくれたのも嬉しかった。

 

■『スキップとローファー』Scene.08「ムワムワ いろいろ」

脚本/米内山陽子 絵コンテ・演出/山城智恵 作画監督/柳瀬譲二、Lee san jin、中山みゆき、佐藤好、田中未来、花輪美幸 総作画監督/梅下麻奈未

P.A.WORKSらしいカッチリした画面や所作の作画は活かしつつ、出合小都美監督の劇伴を含めた演出のコントロールで軽やかに仕上がった一作。

傍観者的な立ち位置をとるミカが、美津未と志摩のデートを尾行する中でより外側に立つナオちゃんと出会って当事者側へと背中を押されるドラマが心地よい。

一方で梨々華に過去を責められた志摩の孤独な夜と、かしましい女子会の夜が同時にあることを示すクロスカッティングの切れ味が鋭く決まっているのが印象的。デフォルメ女子会にこの劇伴を重ねるのが凄い。

 

■『君は放課後インソムニア』第10話「姉はん星」

脚本/池田臨太郎 絵コンテ・演出/横手颯太 作画監督/三橋妙子、冨永拓生、井元一彰 総作画監督/熊田明子

本作の舞台・金沢出身の池田ユウキ監督を始めとした若手の演出家陣の仕事と、各地方スタジオ含めたライデンフィルムの内製率の高さが充実に繋がった一作。

妹の伊咲を昔から知っているのは姉の早矢だけど、伊咲から伝わってくるイメージをフィルター越しに目撃するのは丸太だ。心臓の病気を丸太が知っていることに驚く早矢の表情と間と、足を組み直す描写が良い。

そうして早矢の心情を紐解いていった先にあるバトンタッチが切ない。

大人である早矢の象徴としての車をAパート冒頭から横切らせたり、回想で後部座席に乗る早矢を見せたりすることで印象付けているのも良かった。

 

■『アイドルマスター シンデレラガールズ U149』第4話「羽が折れているのに飛んでいくもの、なに?」

脚本/村山沖 絵コンテ・演出/河原龍太 作画監督/野田猛 総作画監督/井川典恵

アイドルアニメながら児童労働の設定へのシビアな視点が見える奇妙な一作だったが、それゆえこの回も印象に残った。

決め込まれたレイアウトによって、プロフェッショナルたろうと振る舞う桃華を追い詰めるカメラが強調される。プロデューサーの言葉を受けて桃華が見たのはカメラではなく柵の向こうにいるファンの少女だ。子供の高さの目線によってこそ桃華は飛ぶ。

シビアな大人の世界の中で少女がノブレス・オブリージュを一本の命綱に擬似的な死を超えるイニシエーションに臨む、試み自体がバンジージャンプのようなエピソードだった。

 

■『江戸前エルフ』第9話「Time After Time」

脚本/ヤスカワショウゴ 絵コンテ/齋藤徳明 演出/岩田義彦 作画監督/小川莉奈、森田裕之 総作画監督/中尾隆文、齋藤温子、小笠原憂、細川修平、牙威格斗

原作絵のテイストをかなり踏襲しつつもルック作りだけに堕せず情感を描くことにも余念のない良い作品だった。

大掃除で出てきたベータの録画に残っていた小糸の母の姿を直接映さずに、小糸の背中を長い間をとって見せるこの場面にはひとつの達成を感じた。今は失われてしまったものへの想いを寄せる目線が温かくも切ない。

Aパートで雨上がりに駆け出す小糸と小柚子、それを見つめるエルダを先に見せておくことで人の歴史の連なりとエルダの永遠性を実感させる構成になっているのも良かった。

 

■『私の百合はお仕事です!』シフト.03「何を信じたらいいんですの?」

脚本/ハヤシナオキ 絵コンテ/高橋成世 演出/深瀬重 作画監督/郁山想、柿畑文乃、酒井KEI、清水拓磨、Zearth Sato 総作画監督/岩崎たいすけ、徳田拓也、原田峰文、冨岡寛

citrus』を含め高橋丈夫監督作品に多く参加するさんぺい聖監督が遺憾なく腕をふるい、百合コンカフェに集まった変わり者たちをサスペンスフルに描く楽しい一作。

本作での高橋成世の絵コンテは毎回どこかしらにキレがあって面白かった。

この第3話では主人公の陽芽が自分に強く当たる美月を懐柔しようと手を重ねるが、見事に地雷を踏んでしまった場面。初めは美月も画面に映っていたが、長いPANによってどんどん画面から消えていく……というホラーな撮り方に戦慄した。

サスペンスに彩られた少女達が互いの壁を乗り越えた最終回の多幸感も良かった。

 

10選は以上です。

が、以下に選外にはなったものの言及しておきたいエピソードも書いておきます。

 

■『川越ボーイズ・シング』menu6「Summer Blessing」

第9話の絵コンテ・演出・作画監督/武内宣之回も素晴らしかったけど、この時点で本作はかなり面白かったのでこのエピソードを。

静男と父の揉め事を見た天使が自分の過去の過ちに気づき、それを聞いた静男が自分の歌のルーツを思い出すドラマの連ね方、それを喜劇でやってしまうところ、静男の姉のギャルからもたらされる台湾かき氷までシナリオが決まっていた。

 

■『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』Layer 07「雨降って地固まる」

アルコールソフトの社長がコンプレックスから詐欺に引っかかったことが明かされ、息子の守が気づけなかったことを悔いる急転直下のドラマを、大槻敦史の絵コンテによるレイアウトの決まった演出で切迫感をもって描けていた。

作中何度も出てくるアルコールソフトの社屋がライティングや時間経過で様々な表情を見せるのも良かった。

 

選出した作品で察される方もいるかと思いますが、今年は特に4月始まりの作品に刺さるものが多くて充実感がありました。来年も楽しい作品との出会いに期待しています。

 

そして『川越ボーイズ・シング』第12話、お待ちしております……!