最近のアニメのPOV(主観)カメラ演出あれこれ

POVとは「Point of View」、作中の視点の存在がはっきりしたショットのことで、主観的な映像として用いられるカメラワークを指します。
例えば作中にいる登場人物自身から見えている映像を直接、あるいは手持ちカメラのような視点で映す、というような映像ですね。
作中にカメラ等の視点がはっきり存在するように意識されるので、このPOVを効果的に用いると、より感情移入しやすくなったり、臨場感が増したりします。
ここ最近、アニメを観ていてこのPOVを使った演出を目にする機会が増えたので、気になるものをいくつか見ていこうと思います。


・『ガールズ&パンツァー

まずは『ガールズ&パンツァー』のこのインパクトのある第1話ファーストカットから。
戦車砲塔の下程に備えたカメラから撮ったようなこの画面は、作品内に「カメラ」が存在するような意識を与えます。
第1話においては俯瞰、アイレベルに近い水平なアングルが多く、劇的ではなく第三者による撮影のような感触のある演出になっていると感じます。それでいて要所に主人公みほの主観カットや生徒会面子の煽りのカットも入れる辺りは的確で上手いですね。
OPにおいてはファーストカットがまさにカメラがみほ達を捉えるというもので、一種彼女達をドキュメント的に捉える意図がある演出方針なのかも知れません。
少女達の日常と、戦車を扱い戦う"状況"を同時に見せるにはぴったりなスタイルかな、と思います。
カメラの存在が作品内に入り込んでいるスタイルなので、隠しカメラ的なアングルのPOVをここぞの場面に持ってくるのが効いてくると感じたカットでした。


・『BTOOOM!

続いては『BTOOOM!』の第1話アバンより。
劇中ゲーム内でのプレイヤー視点で、まさにPOV視点のゲームであるFPSファーストパーソン・シューティング)のそれのような画面。
POV視点はFPSゲームの流行以降にエンターテイメント映画等でその影響がよく見受けられ、それがアニメにも来たような気分です。
そうした映画というと例えば『インセプション』の後半の雪山のシーン、『アイアンマン』の序盤等。
『Alive in Joburg』や『第9地区』のニール・ブロムカンプは、FPS的なモチーフをモキュメンタリーに落としこんで成功しましたね。

また、『ネイビーシールズ』という同名の米海軍特殊部隊のプロパガンダ映画は、自身もFPSゲームを製作するトム・クランシーが監修を行い、POV視点はおろか人物紹介やマップ表示まで為されるFPSっぷりでした。

話を『BTOOOM!』に戻すと、本作はマッドハウスが制作してきた『SUPERNATURAL: THE ANIMATION』等の海外展開作品のようなBL影のつけ方をされたキャラ等、海外展開を意識しているのかそちら方面の作品の蓄積を使ったデザインが為されており、FPSゲーム的な表現を導入に持ってくることもまた海外展開作品のようなカラーを付与して作品の差別化やフックにつなげようという工夫を感じるものでした。


・『ソードアート・オンライン

こちらもゲームを取り扱った題材、『ソードアート・オンライン』のOPと、第11話より。
ゲーム内で体を動かすという世界観から、手を伸ばすキリト・アスナの主観カット。
主観に加え、映った体の一部(この場合は手)に注目が集まり、視聴者の身体感覚にも訴える映像になります。
3枚目の第11話アバンのキリト視点で頭を押さえるアスナを見るカットも、アスナの手が近く、自分の身体と同期してより作中に引き込まれる気持ちに。
戦闘においては主観カットはパラメータ表示の描写の印象が強く、作劇の演出としてはドラマにおけるこうした場面の方が印象深いですね。


・『機動戦士ガンダムUC

今度はOVAの『機動戦士ガンダムUC』シリーズの第1話(1枚目・2枚目)と第3話(3枚目)から。
1枚目はマリーダ主観のコクピット、2枚目は仲間の死を察したマリーダの主観、3枚目はマリーダの記憶を追体験するバナージの主観カットです。
2枚目は人間の身体感覚を意識させ、1枚目はそれと同様にモビルスーツの腕に注目させ身体感覚を意識させるというものですね。
3枚目はここに至るまで何度も描写した腕による身体感覚が、「バナージがマリーダのことを直感的に理解する」という現象の担保となるカットです。
マリーダが多めなのは、第3話で明らかになる彼女の出自と体の秘密に、こうした演出が密接に絡んでいるのが巧妙だと思ったゆえのチョイスです。
古橋一浩監督は「グレートメカニック」誌にて「戦争での人体の欠損をMSで表現した」といった旨を語っており、身体感覚を見せる演出を心がけているようです。
富野由悠季さんもラジオで「ロボットが人型なのは身体感覚を確保するため」と語ったことがあり、古橋監督の演出方針もこの富野さんの考えを汲んでいる、あるいは似た発想であると感じます。また、欠損に関しては『プライベート・ライアン』等の戦争映画的な描写を思わせ、古橋監督はそこも意識されているのかな、と。


・『ゆるゆり♪♪

ここまでアクション・戦争モノ(なのか、『ガルパン』は?w)が続きますが、ここで『ゆるゆり♪♪』第11話から。
第11話は劇中劇ながらあかりに寄り添った話で、演出としてもあかりにフォーカスするものでした。
そこで1話かけて結論を出したあかりの行動となるのがこのカットの主観ショットです。
それまであかりに感情移入して撮ってきたからこそ、ここであかりの両腕と潤んだ瞳といった身体感覚を意識させられ、こちらの涙腺まで……。
といった具合に、感情移入する演出におけるダメ押し的な使われ方の良かったカットでした。


そんな感じでちょっとしたPOV(主観)カメラ特集でした。
軍事・戦争のドキュメント的な緊迫感やゲーム内での身体感覚等が多めなチョイスではありますが、やはりそれらと相性いいものだな、と。
やはり3DCGによるレイアウトや芝居に凝った作画の充実等で、アニメでもこうした演出は増えているのかな、と思うところです。
最後におまけで『仮面ライダーウィザード』の第1話のカットから。
『ウィザード』のパイロット版監督の中澤祥次郎監督は若い感性の方で、こういう今風っぽい画を随所に入れてくるので、アニメの演出が好きな方には結構おすすめです。『ウィザード』自体、指輪をガジェットとして扱うコンセプトなので、手や腕を意識させる画を多用する演出のようですね。