『ラブライブ!』1〜3話の京極尚彦監督のカメラを動かす演出に注目してみる

ラブライブ!』、とても面白く観ています。
前回の記事でそのスピーディな展開の圧縮ぶりに注目していたら、あの3話でのライヴの客席。
クラスの数人の団結でしかなかったことを、がらんとした客席で見せる、その視点の置き方自体がとてもツボでした*1


今回の記事は、その場面のことも見ていくんですが、少々迂回して京極尚彦監督の演出として特徴的だと感じる部分から見ていこうと思います。

まずはTVアニメ以前のPVから。注目したいのは、ズームやPANを多用しているところです。
歌い出しのことりをPANで見せたら、カメラがそこでズームアウトし、全員のダンスを見せる。
そこでドラマパートのことりにカットが切り替わったと思ったら、今度はPANでダンスに戻ってきて、更にカットはそのままでズームアウト。
その後も場面転換にPANが使われ、キャラに寄ったカットでもじわじわとしたズームやPANを使ったり、背景を引いたりとカメラが動くカットがとても多い。
これで思い出すのが、次の動画です。

これの8分過ぎ辺りからの、アイドルのライブにおけるカメラマンチームのズームやフォローの技。
歌割りやダンス中の位置取り、振り付け等を把握した上で、曲に相応しい動きをこれらの技で作る、という技術が紹介されています。
ラブライブ!』PVにおける技は、これらと全く同じということではないにしろ、曲や振り付けに合わせて行なわれるという意味で似た性質を持っているように思います。
最初の動画における「もっと近くで」のにこのカットや「僕は」の真姫のカットでの、腕の振りを追ったカメラ動や、「輝きを」のカットでの手アップの次に腕を振り下ろす振り付けに合わせたカメラ動等。
ちなみにフルバージョンだと、2番で掛け合いの振り付けが出てきて、その際後からフレームインするキャラのためにズームアウトが用いられる場面も見られます。
京極監督がどこまでこうしたカメラマンの技術を知っていたかは分かりませんが、カメラワークによって曲や振り付けを更に演出しようという意図は、先の動画と近いと感じます。
加えて言うと、アニメは物理的制約がない(技術的な制約はあれど)ので、アップから実写ではありえないような遠景までズームアウトする、といったケレン味のあるカットも『ラブライブ!』のPVでは使われたりしていますね*2


といったように、京極監督はPV時代を見るに、カメラを動かす演出が得意なようです。
では、PVとは違う場であるドラマでの京極監督のカメラワーク演出はどのようなものなのか。
各話での、ある一つのカメラワークをピックアップして見てみましょう。それは→方向へのPANです。


・第1話

上三枚はAパート半ばで穂乃果達が学校を見て回る場面でのカット群で、下三枚はAパート後半で穂乃果が母親のアルバムにあるかつての学校の写真を見るカット群です。
上三枚のカット群は、廃校になったいきさつから、それを何とか出来ないか考える穂乃果達の会話をボイスオーバーにして、学校内各所を見て回るシチュエーションを短縮して見せていく、時間を圧縮して説明を行う場面ですね。
それぞれの場所から別な場所に一気に飛ぶのを、→方向のPANで映像に流れを作って違和感なく見せるという演出がされています。
下三枚はアルバムの写真を見せるカットで、こちらはややゆったりと時間を取っているカット群ですね。
穂乃果が学校をどうにかしたいと強く思う、妹が別な学校を受けると知って、祖母も母もずっと通っていた学校だということを再認識するシーンです*3
この→PAN三回の後、穂乃果の母親が生徒会長をしている写真が↑のPANで現れ、決心するような穂乃果の口元のカットに続きます。
状況説明を圧縮して行った上三枚の場面から、同じPANでかつての学校を見せ(下三枚)、母親が学校で頑張っていたということに一気に繋げる形で、→PANが使われているんですね。
ここまでAパート半ばで、この後スクールアイドルを知るまでをAパートでやってしまうので、非常に手際の良さを感じさせます。
ちなみにBパートでも→PANの出るカットはあって、それは真姫の歌を聞く穂乃果のカットと、生徒会に部の申請書を出すカットです。
前者は次回への布石的ですが、後者はその後突き返されるカットが←PANで、カメラの動かし方に自覚的なところを感じます。
そして最後、穂乃果に背後から→の方向に寄っていって、彼女が歌い出し、→方向に向かっていく、という流れも自覚的に作られた動きなんじゃないかな、と思わせます。


・第2話

左から二枚はクラスメイトの言葉を聞く穂乃果のカット、三枚目はμ'sの名前の書かれた紙を見る穂乃果のカットです。どちらもBパート。
この回は、場面転換に使うPANを除けば縦のPANの方が多いです。腕立て伏せや、階段を走る特訓という話のメインが縦の動きのため、その印象を強化するテーマでそうした演出になっているのかな、と思います。
ではその縦のPANが多い中で使われる第2話での→のPANはどう使われているのかというと、画像のように主に穂乃果を捉えています。
クラスメイトが手伝いを買ってくれる場面や、誰かがつけてくれたグループ名を見る場面での穂乃果のリアクション、先に挙げた以外はスクールアイドルのランキングに票が入った時の穂乃果のリアクションのカットも→PANが使われていますね。
前回は学校自体を見せる→PANでしたが、この回では「学校の中の穂乃果」を捉えているように思えました。
クラスメイトや、名前を考えてくれた誰か、票を入れてくれた誰かによって、自らも学校の一員であることを自覚する彼女を見せるようでした。
ちなみに穂乃果以外ではAでポスターを見る花陽の背後ににこがくるカットと、歌詞を渡されて悩む真姫にも使われています*4
前者は切り返した次のカットで←にPANして阻まれますが、後者は穂乃果から受け取ったものをその後手紙にして送り、→PANをその先へ繋げていきます。


・第3話

第3話はAパートでは主に←方向のPANを使って海未の葛藤を見せていて、Bパートで→PANが多く出てきます。
上段左は幕が開いて誰もいない客席を映すカットの一つ、それ以外はライブ2番サビでの連続して観客*5を見せるカット群です。
上段左は、ここに挙げた以外での、Bパート冒頭の満員の講堂を見せる→PANとの対比的な効果を持つカットでもありますね。
そしてそれらのカットは前回までの→PANにあった、学校の中にいる穂乃果達の視点が学校全体ではないということも対比的に見せてきます。
ここの一連で他に目に留まるのは、第1話の歌い出しの穂乃果の顔に寄っていく→方向のカメラの動きと、客席が見えるカットのそれを同じ動きにしているところですね。
この落とし方は凄いですが、そこへ→の方向から講堂に花陽が現れます。この観客の登場で、穂乃果も→方向に一歩を踏み出す。
そして行なわれるライブで挟まれるのが、ここに挙げた観客のカット群、そこに居合わせたメインキャラ達の姿です。
そこに映された思い思いにライブを観るメインキャラ達も(きっと後々のことも含めて)大事ですが、ここでは彼女達が見ている先の、穂乃果達の歌がまさに観客の彼女達に届いているというのを描写しているのが重要なポイントかな、と思います。
これまでの回からの流れを見ていくと、第1話で学校を見て、第2話で学校での居場所を確認して、そして第3話で歌を届ける……といったようなことを→PANによる接続から見ることが出来るのではないかと思いました。
ライブの後、絵里が現れて斜め上からの←のPANで失敗をどうするつもりかと聞きます。続けることを伝える穂乃果の言葉はボイスオーバーになって、再び観客それぞれに届くように各々を→PANで見せていきます。本編最後のカットは→の方を向く穂乃果達を映し、その視線にはまだまだ先があると伝えてくれるようです。


細かい意図に関しては個人的な見方と感想も込みになっていますが、各話での→方向のPANはこのように、穂乃果達の視点を感じさせる使い方をされているようで、彼女たちの感情が乗っているように感じました。
PVで培った大胆な動きを作るカメラワークや、スピーディな場面転換だけでなく、こうしたキャラの感情を乗せたカメラワークも出来るのが京極尚彦監督の良さではないかな、と思います。
また、そうしたここという場面で穂乃果達の感情をしっかりと捉えることが、"スクール"アイドルというあくまで普通の学生としての彼女たちの魅力につながっているのではないかと。


ラブライブ!関連エントリ

*1:主人公達の考えが近視眼的で、かつそれとは別な視点があることも描く自覚的なところに初期プリキュアウテナ的な良さを感じたりしました。

*2:3DCGでは更にカメラワークの自由度が上がりますし。

*3:この、発端が近視眼的なところが個人的にツボです。

*4:前回の記事の下段真ん中の画像ですね。

*5:希は会場内に入ってませんが、聞いていたことには変わりないかなと。