『戦国コレクション』が描くシンメトリーな関係 - いくつもの場面の中で

以前に映像的なテーマをひとつの話の中で追っていく演出について書きましたが、今回はシリーズ全体を通して描かれるテーマ的な映像について追っていこうと思います。
作品はいよいよ終わりも近づいている『戦国コレクション』です。
本作において注目したいのは度々現れる(全話通底ということはないですが)シンメトリーな構図のカット。
それらが描くものが何なのかを追って行きましょう。


・COLLECTION-1 「Sweet Little Devil」

最初は信長から。現代で出会った太田のところで一宿一飯に預かる場面で、ちょうど一飯と一宿なところでシンメトリーなカットが描かれていますね。
そんな中で現代も良いところだと思う信長ながら、彼女は太田のもとを去り、戦国世界へ帰るための旅に出る。
この記事で取り上げるシンメトリーは背丈も一致してなければならないということではなく、人物配置によるものです。


・COLLECTION-3 「Pure Angel」

次に謙信と兼続の回。同ポジションで使われる食事をする二人のカットや、橋の下で二人が対峙するカット、兼続の心が晴れてから信長と相対した時の2カットと、謙信と兼続をシンメトリーに配置したカットが随所にあるエピソードです。
謙信と兼続の密接な関係や、川を挟んで対峙するドラマをこのシンメトリーな構図が一層印象深いものにしていると思います。
画像は載せていませんが、右下の図の後、謙信と兼続から秘宝を取った信長は物憂げな表情を見せる、というところもポイント。


・COLLECTION-7 「Refined Bard」

芭蕉の回。少女亜衣、オカマのさとし、カフェの主人真理恵と距離が縮んだところで現れるシンメトリーのカット。
月の夜のシーンで心情を動かすだとか、反復の効いた構成の話でしたが、こういったところでこの構図を用いるという構成にもなっています。
2枚目と3枚目は結構キメの画として使われている感じですね。


・COLLECTION-10 「Ambitious Princess-II」

双雲の回後編。3枚目は変則的ですが、引きの真横位置の構図でカットをつないでいるのはそれまでのカットとの連なりからして、これもシンメトリーの変形のうちの一種かなと思って入れました。
少女純と約束をするも、それ以前に仕えていた義元と会い、約束を更新する、2枚目と3枚目が特に短いスパンの中で描かれたドラマになっています。
双雲にとっては純も義元も共に等価値の主君であり、不器用ながらも約束は守る双雲の姿が現れるシンメトリーの画でした。


・COLLECTION-11 「Brutal Maiden」

久秀の回。3枚目はカット頭だと人物配置もシンメトリーですが、可愛かったのでうっかり……(えー)。
アバンの久秀と仕事仲間の一仕事後のハイタッチ、そのアバンと同じ手口を行う久秀とサラ、そして一仕事終えた後の久秀とサラ。
久秀の詐欺は舞台劇のようなスポットライトを浴び、そこに役者として参加したサラはそのまま久秀の劇団の一員になるのだった。
……といったような瀟洒さを感じさせるシンメトリーな構図の用い方でした。


・COLLECTION-13 「Silver Hornet」

善住坊の回。信長と善住坊の親友アゲハがシンメトリーに描かれ、それを暗殺者の善住坊が覗くという構図がとられ、善住坊とアゲハもまた回想(左下)やラスト(右下)でシンメトリーを描く。
この話は1話と反復される部分もポイントで、同ポジション風のハンバーガーショップのシーンや、信長が一泊する、海に行くという類似点がそれに当たります。「一宿一飯の恩義」として、信長がアゲハのもとに善住坊を置いていった、とも読める話が美味しいです。
最後のアゲハの台詞は、信長を巻き込んだアゲハも本音としては誰かが隣に居て欲しかったことを伝えるようで、この回のシンメトリーがそうした距離感を描くものだということを意識させられます。


・COLLECTION-15 「Annihilate Princess」

義光の回。再会した政宗とのカットでシンメトリーが描かれるが政宗は去り、政宗が尊重した日常の中で義光は友の真緒との仲を深める。
政宗と共に居ることはできなかったけれど、今の日常にも大事な友がいることを映像的に補強してくれるシンメトリーの画でした。


・COLLECTION-16 「Blade Adept」

義輝と石舟斎の回。上段は出てくる順番としては逆になっていますが、構図としては対照的であることがより理解しやすいかと。
しかし何だこの画は……。
いがみ合いながらも、別れを意識した時に本当は近しく思っていたことを悟る二人に現れるシンメトリーの構図。
共にありたいと思う人を見つけたところでこうした構図を持ってくるのが良いですね。
利休は信長にこれを姉妹道と説きます。利休も何気に大事なキャラ。


・COLLECTION-22 「The Splendor」

小十郎の回。再会した政宗とシンメトリーの構図を描くが、小十郎の不器用な心は踏ん切りが付かない。
上司の日暮刑事の計らいによって、ようやく二人並び立つことができるようになる。という逡巡の流れにこの回のシンメトリーはあります。


ここまで見てくると、シンメトリーの構図の中に武将や武将と関わる人物達にある各々の関係性を強調させる意図が感じられてきます。
近しい間柄であるとか、距離が縮んでいく様子であるとかがこのシンメトリーの構図によってより強く印象づけられます。
そしてそうしたシンメトリーの構図がいくつもの回で用いられるというのは、縦糸の話にも絡んでくる部分だからではないかな、と思います。
それはほかならぬ、信長と光秀の話です。


・後期オープニング 「back into my world」

ちょうど善住坊回の直後だったのでシンメトリーなカット群が目に止まりやすかった後期オープニングアニメ。
1枚目と2枚目は順番逆ですが、これもシンメトリー風な対比の構図を理解しやすいようにこの並びにしました。
これ以外も全体としてサビに入るまでは信長と光秀を対比的に描くことに焦点を絞っていますね。


・COLLECTION-20 「Vengeful Fang-OS」

光秀の回後編。この回においては、二人の喧嘩と対峙にシンメトリーの構図が用いられました。
1枚目のカットではこの後二人とも目線を逸らすのですが、その辺りもなかなか示唆的かなと。
秘宝と聞いて即現れる信長や、姉妹道を説いた利休が光秀をかばい信長に立ちはだかる辺り、何気に「Blade Adept」のネタが効いてきます。
信長が秘宝によって目的を得たのと同様に、光秀も自分に秘宝がある限り信長との永遠の別れを阻止できるという目的を得る対比も。


他の人物達と違って対立を描く信長と光秀のシンメトリーはどんな結末を迎えるのか。
それは本作で描かれてきたシンメトリーの関係性の行き着く先でもあると思います。そんなわけで最終回が気になるところです。
では、最後にイレギュラーとして少し違ったパターンを。


・COLLECTION-18 「Four Leaves」

吉継の回。文通をする吉継とエンジェルはその部屋を類似的な構図のレイアウトで描かれ、似たところ、心の近さを感じさせるが、二人は決して出会うことはなかった。4枚目のエンジェルが手紙を書いていた机の前にひとり佇む吉継は、本作においてシンメトリーになることができなかった人物として描かれているのではないだろうか。
ゴッホタッチの背景美術ながらに手前〜奥の意識されるレイアウトがより吉継の寂寥を感じさせる。
しかしながら吉継は次回予告で言う。「幸せなお話だといいな」
この次のCOLLECTION-19は光秀の回であり、連続した縦糸の話。吉継の祈りはまだ途絶えてはいないはずだ。

(後期エンディング 「ダーリンとマドンナ」より)