テーマをもって演出するということ - 「謎の彼女X」第11話より

毎週面白い絵コンテワークで楽しませてくれた「謎の彼女X」もいよいよ最終回です。
そこで本作の絵コンテの魅力の一つを、映像内のテーマに即して演出が為されていた第11話からちょっと追っていこうかと思います。


第11話「謎の文化祭」においては、「窓」がテーマをもって扱われています。


まず最初に「窓」が意識的に出てくるのがサブタイトル直後のシーン、早川が椿の腕を組んで椿が「そんなにくっつかなくても」と言うカット。
その前のバストアップのカットからカメラが反対側に移り、窓の外から2人を捉えたカットに変わり、観ていて「窓」が意識されます。
そこで早川が「だって、どこで前の彼氏が見てるかわからないもの」と言い返します。
いきなり窓の外に移ったカメラとともに、誰かが見ている、という視線を意識する効果として用いられたのか、とここでは連想させます。


次に「窓」が現れるのがメイド喫茶でのシーン。丘の写真を撮った男が「どうも」と言って去っていくカット。
先程のカットから、こちらでも写真を撮られる丘として、視線が意識される場面で窓の外からのカメラアングルのカットが用いられています。
更にその後すぐのカットで、向かいの窓に椿と早川がいるのを目撃する丘という窓越しのカットが出てきます。
これもかなり視線を意識させる用いられ方ですね。


そして続く次のシーンでは、椿が早川に人気のない教室に誘われ、そこで開いた「窓」の前に佇む彼女を見つける、というカットが現れます。
引きのカットではその窓からの光の直線上に早川と椿が立っている、という構図を見せます。
そこからの回想では、開いた「窓」から早川が外を眺め、閉じた「窓」から椿がそれを見つめる、という構図が先の現在における開いた窓のカットと対応する形で描かれます。
回想での椿は自ら開いた窓の前まで行き早川に近づきながらも、結局閉じた窓の方へ移動してしまう。
それを椿に回想させる早川、という図式からしてこの辺りは「椿の視線を感じる早川」といった用いられ方でしょうか。
そして彼女の側の窓は開かれている。
それでも椿は早川のよだれを舐める事を一度断り、その時のカットはカーテンのかかった窓しか映らないアングルが使われています。


その開いた「窓」は、真打卜部がダンボールを切り裂いて姿を現すカットで、早川から卜部が奪い取ります。
「窓」が視線を意識させる、という事で言えばこの時点で椿は目隠ししていますが、よだれで卜部が裸だと分かった事を考えると、卜部がこの位置に来るのもまた効果的ではないかと思います。
まあ、丘という観客ポジションもいますがw


更に今回はそこでクライマックスにはならず、卜部は椿に早川のよだれも舐めさせます。
卜部はカーテンのかかった窓の側(しかしながらいわゆる"上手"ですね)に腰かけ、早川が開かれた窓の前に立ちます。
ここも視線という事で言えば、早川の番なのは分かっている椿が裸の彼女を意識している、という事が印象づけられます。
しかし早川のよだれを舐める前に彼女は涙を流し、卜部にそれを拒絶だと看破されます。
そこで初めて早川は彼女の心の中をさらけ出します。ここで「開かれた窓」に別な意味が付与される事にもなるんですね。
そして卜部はそんな早川に手を差し伸べ(自らは"下手"に移動し)、早川を元気づけます。
加えて第三者の丘による突っ込みで自分の事を客観視してか、早川は完全に何か吹っ切れる。
「よだれによる絆。そんなものがあるなんて」
そして「窓」から光が入ってきます。
「何だか、あなたと椿君が羨ましくなっちゃったわ。私も、いつか誰かとそんな絆を結べる日が来るかしら」
そう言って早川は開かれている窓の方を向きます。
最後に早川は夕暮れの中教室で「窓」の外を見て微笑みます。
その夕暮れの空の下にはより絆を深める椿と卜部がいる。


このように、「窓」が「誰かの視線」を感じさせるという所から丘や目隠しした椿の視線を経由して(この段階では早川は常に見られる側)、
最終的に「外を眺める(吹っ切れる)」早川の視線として着地する、という流れが映像面で作られているのが面白いと感じました。
こうした映像において話の流れの中で効果的に映える要素をテーマをもって扱う上手さがこの回の魅力ですね。
第6話なんかもカメラをテーマにかなりアングルに凝った絵コンテになっていて見応えがありました。
というわけで、今期は「謎の彼女X」にも楽しませてもらいました。