「作画の錬金術師 嘆きの丘(ミロス)の聖なる技 in 早稲田祭」のメモ的レポ

という訳で行って参りましたので、備忘録も兼ねて書いていきます。
パート紹介もあり人名が多いため今回は敬称略にて失礼します。
録音禁止であるので発言も簡潔にしてニュアンスは拾っていないのでその辺りもご了承を。
全てを拾えているわけではなく、分かりやすさ重視で流れも前後しているところも多々。
当然皆さん敬語だし、かなり熱く語っておられましたよ!



<登壇者>
小西賢一
押山清高
森田宏幸(司会)
原田征爾(学生団体COROMO代表)


<第1部>
イベント開催の経緯から。JAniCAによる協力が大きく、理事である森田が本作の原画にも参加していたので橋渡し役に。
イベントはパートをピックアップし、各シーン語っていく形式で進行。


・シーン1「アバン、幼いジュリアが起きてからアシュレイを追って部屋に入るまで」
森田の原画パート。作監は小西。
小西「アニメーターとしての森田は田辺修等のように、派手さはないが芝居付けがとても上手い」
森田「まず小西からコンテの内容を変えて膨らませて欲しいという要望があった。経験の浅い演出家のコンテならままある事だが、監督の村田は実力のある演出家でありだいぶ悩んだ」
   「アシュレイが部屋を出るカット等、コンテではもっと直線的な走りだったが、スリッパで足を上げて走るのはおかしいので芝居を付け足し、ものを避ける軌道で左右への動きも加えた」
   「アシュレイがドアまで向かうカットは失敗だと思っている。打ち上げで山下清悟・沓名健一にジブリ4スタっぽくて良くないと言われ――4スタを貶める訳ではなく、モドキっぽくなっている」
小西「ドアの奥まで向かう速度が早かったかも知れない」
森田「アシュレイがページを捲る芝居は上手くいったと思っている」
押山「ジュリアがアシュレイを追って廊下を歩くカットも上手い。脚がスカートに当たっていないのにスカートがパカパカ動き、フォルムの変化を見せるアニメ的な誤魔化しが良い」
森田「村田のコンテは縦の動き――手前〜奥といった動きが多い」
小西「(アニメーター的には)厄介」


・シーン2「エド・アルとメルビンの最初の戦闘、メインタイトルまで」
押山の原画パート。
押山「最初のメルビンの氷の攻撃はコンテにはなく原画で膨らませたもの。最初の戦闘なので派手に。メルビンが攻撃前、手に目をやる芝居を足すことで観客の意識を手に向けさせている。放たれた氷は多くが画面の外に飛び散って、エドに向かう氷はより少なくなっている。派手さを目指したカット。ただ、もっとスピード感が出せれば良かった」
森田「メルビンが電撃を放つ際の動き等、普通止めにしてしまうところも良く動かしている」
押山「なるべく止めのカットは作りたくなかった。メルビンの電撃は力を溜めて放つ表現。エドの左脚、右腕とアップになるカットはオートメイルがハーモニー処理なので、マントを動かしたり、腕はスライドで動かしている。1kでは不自然なので2kや4kにしている」
前後するが、このシーンについての上がった質問もここで。
質問「電撃エフェクトが一本の曲線(テスラコイル風)で描かれているが、こうした表現にしたのは何故か」
押山「一般的な電撃エフェクトはもっとギザギザしているが、それとは別な表現にしたかった。通常手描きで電撃を描くと色を塗る都合のため二本の線で描く必要があるが、タブレットを使えば一本の線を描けば済むので、そうした省力化のためでもある(エフェクトのみタブレット上。キャラは紙で描いており本人曰くデジタル過渡期なので面倒な作業)」
質問「氷を受けエドの壁が砕けるカットでの煙エフェクトが他と違い線が描き込まれているがこれは何故か」
押山「(煙は画面端にあり)目立たないカットだったので立体感を見せるような線を実験的に行った。劇場では見えにくいがソフトでは確認しやすくなるはず」


・シーン3「路地の兵士のモブシーン、爆発」
青山浩行の原画パート。
森田「(メインキャラが出てこないのもあり)ここだけ『人狼』的。最近では『サマーウォーズ』の作監でもあり、青山はカッチリした絵柄」
押山「キャラが多いしエフェクトもある割に目立たないシーンなので拾ってもらって助かった」
森田「本人は描き飽きているかも知れないが、青山の爆発は上手く、自分も監督作ではついそういったカットを頼んでしまった」
小西「やはり爆発が上手い。巻き込みも非常に上手く描かれている」
   「窓から爆弾を投げるモブの動き等、誇張が効いていて上手い」
森田「本作では青山も若手に(良い意味で。森田は進化と表現)引っ張られているのではないか。(カッチリしただけではない)大胆なフォルムになっている」
押山「原画は柔らかい線・フォルムになっていた」


<第2部>


・シーン4「メルビンとジュリアの会話、耳飾の回想を挿むシーン」
会話は山口明子の原画、秦綾子の作監。回想入ってすぐは赤堀重雄、耳飾を付けるくだりは金子志津枝の原画。
この辺りのトークは芝居を見せるタームだった
小西「山口はジブリ等で原画をしており上手い。秦の作監修による手の表情付けも良い。ここは劇場では動画が失敗してそのニュアンスが拾えていなかった。ソフトでは修正されている」
   「金子は劇場版『ドラえもん』を手がけており、キャラも『ドラえもん』っぽい」
森田「耳飾を付けられているジュリアのくすぐったそうな芝居が良い、間の取り方も上手い」


・シーン5「ジュリア対メルビン、服を脱がされるシーン」
亀田祥倫の原画。
小西「亀田はアクションも上手く、そちらが注目されがちだが芝居もできる」
森田「アクションは一人をピックアップして描いてもいけるが、ここは二人が絡む内容なので、芝居がちゃんとしてなければできない」
押山「ジュリアを追い詰めるメルビンの表情も良い」


・シーン6「病室で起きるアシュレイとジュリア、ジュリアが松葉杖で立ち上がるまで」
アシュレイが起きるパートは大貫健一の原画。ジュリアが起きて松葉杖で立つまでのパートは浅野直之の原画。作監は小西。
小西「アシュレイが起き上がるカットが非常に上手い」
押山「感じがいい」
小西「ジュリアが起きてからが劇場版『ドラえもん』を手がける浅野。手の描き方が良い」
押山「手のひらのふくよかな肉付きがフェティッシュ
小西「このシーンで登場する男性キャラ(すみません、名前を失念……)は、彼の表情付けのお陰でキャラが立った」
森田「松葉杖で立つ所も非常に上手い。描くカット内での動作をしっかり自分で把握していなければ、原画でのフォルムを変化させた動きがつながって見えなくなったりしてしまう。この後自分の松葉杖で歩くシーンもあるが、このカットを観た時負けたと思った」


・シーン7「鮮血の星を手にするメルビンから星を飲み込んだジュリアの攻撃までのアクションシーン」
最初のエドが槍を出してメルビンの攻撃を避ける所がうつのみや理の原画。それを受けてのアクションの続き(アオリのカットなど含んだ流れ)が山下清悟の原画。ジュリアが鮮血の星を掴む下りが清水洋の原画。星を飲み込んだジュリアの攻撃が沓名健一の原画。
ここからはアクションを見せるターム。
押山「うつのみやの空間表現が上手い。山下は柔らかいフォルムと気持ちのいいタイミング付けが良い」
森田「山下や沓名はデジタル上で作業をしており、場合によっては自分達で仕上げまでしてしまう(『鉄腕バーディー』EDなど)が今回はどうか」
押山「今回は基本的に原画までの作業で、エフェクトに関しては動画として使える素材として渡された」
森田「彼らのデジタル作業の技術はもっと注目されてもいい。実写にVFXアーティストといった肩書きがあるように」
※上記の発言に対する個人的な感想だが、JAniCAで沓名塾のイベントもあるのを見ると、森田は山下・沓名のデジタル作画作業を買っていて、広めたいのではないだろうかと思った。森田は後にもデジタルに関する話題をしている。
押山「ジュリアが鮮血の星を掴む手の修正は上手くいった」
小西「この辺りは修正が自分と押山で入り組んでいる。鮮血の星を飲み込むジュリアは自分(まつ毛とか)、走るエドは押山」


・シーン8「汽車での戦闘シーン全般」
狼キメラの変身は道解慎太郎の原画。メルビンを混じえての戦闘は小田剛生の原画。
小西「汽車等のCGはまず演出の夏目真悟がレイアウトを描き、その上に上手く当てはめていく形で作られていった」
森田「自分もCGを使う作品に携わったことがある(多分『ぼくらの』のこと)が、CGの場合でもまず空間を作れるアニメーターが画面を設計する作業は必要だと感じる」
押山「こういった空間作りはマニュアル的なノウハウがないので難しい」
   「道解は面白い線質を描く。橋本晋治的。小田は面白いフォルムを描く若手」
   「狼キメラとの戦闘は宣材として優先作業をしていたので動きの方針が定まっていなかった。狼キメラが走ってエドに腕を振り上げて攻撃する動きはハンドボール宮崎大輔の動きを参考にした」


・シーン9「メルビンの氷の攻撃をかわすアルとジュリアから落下、氷が受け止めるまでのシーン」
宮沢康紀の原画パート。前半から宮沢の名前が上がっていた。
押山「氷に色がついて水晶のように輝くのは宮沢のアイデア。ランダムに変化する色を全て指定していかなければならず、なかなかできない」
小西「宮沢は本当に発想が豊かで凄い。この氷エフェクトが気に入った人は『ドラえもん のび太の恐竜2006』のタイムマシーンのパートもおすすめ」
森田「宮沢は若手ではないが、いつも発想が凄い。小西が宮沢の作画を好きなのは、事前に読んできた『月刊アニメスタイル第3号』で小西が"びっくり箱のような作品にしたい"といった旨の発言をしていた所ともリンクすると感じた。『のび太の恐竜』で後の劇場版『ドラえもん』の絵柄を打ち出したのもそういった精神があったからでは」
この辺りからフリートークっぽい感じに。
小西「宮沢のアイデア等、色々と意見を通してくれて村田は大変だったのではないかと」
押山「多くは言わず意見を聞いてくれたが、村田は怒ると顔が赤くなるので表情を見ていると分かった」
森田「『アニメスタイル』の村田のインタビューを読むと、彼は"最初のアニメブームに触発されたヤマト・ガンダム世代の人たちが、いまだに業界の中心で大きな位置を占めている"ところから脱却したいという大きな視野をもって考えていて、小西らの自由なアイデアがあって良かったのではないかと思う」
   「村田も小西もジブリ出身だが、宮崎駿高畑勲といった大監督のいるスタジオから離れたことが自由な現場を目指すところに影響したのでは」
小西「ジブリ帝国主義を離れたことで今後はもっと自由にやろうという意識になった」
森田「今後のアニメ監督は下からのアイデアを吸い上げることも大事になってくると感じる」


質疑応答。
あまり多くは拾わないが、『鋼』の元々のファンからの意見も積極的に訊いていた。
質問「今作ではキャラクターの髪が丸い輪郭になっているが何故か」
押山「丸くしようというよりも尖らせないというニュアンス。フォルムの変化をつけやすくするため」
後は細かくて拾えないけれど、色トレスによる爪の表現は角度等で実際の爪の見え方も変わるので細かい指定ではなくカット毎に検討しているという旨の小西の発言が興味深かった。


原画等の資料も持ってきたがあまり見せられなかったので、押山の落書きを見せようという流れに。
押山の面白いところということで小西が見せたかった模様。実際凄い速さでアルフォンス等を描いていき、見事だった。
そして宣伝。
森田「ムックと原画集が来年1月に発売。来年2月8日にDVD(ここでは言っていなかったがBlu-rayも。初出は本イベントだが今は公式サイトで確認できる)が発売」
   「二人の今後の予定は」
小西「ジブリ高畑勲監督の次回作に参加」
押山「まだ言えない作品だが、かなりがっつり関わる予定」



以上。ざっくりとしたまとめでした。
イベントはJAniCAを始めアニプレックスBONESの協賛で資料も借りられたようでしたが、やっぱり時間内に見せるには難しかったようで、今後またこうした機会と資料があればそれを活かす進行も観てみたいかなと思いました。
とはいえトークは熱く盛り上がって、それだけで充分お腹いっぱいになれるイベントでしたね。
このまとめだと到底伝わらない感じだけど、押山・小西両名の落書きを賭けたじゃんけん大会をその場で突発的に行ったりイベントらしい所もあり楽しかったです。